きらたかし先生の漫画。めちゃくちゃ好きなんですよね。ケッチンも好きだし赤橙えれじぃは好きな漫画TOP3に入るぐらい好き。この人は日常の些細な幸せを描くのが本当にうまい。話の起伏の少なさで言ったら多分日本でトップレベル。驚くような展開はないし、ずーっと淡々と小規模な物語が進む。それがまたリアルでいい。
リアルな日常を読者が楽しめるように描くって本当に難しいはずなんですよね。それが抜群にうまい。
きらたかし先生を「青春マンガの名手」とかいう紹介をどこかで見たことがあるんだけど、一般的な“青春”のイメージって「甘酸っぱいけど美しいもの」みたいな印象を持ちがちじゃないですか。この人の描く青春はそれと全く違うんすよね。ひたすらにリアル。言うなれば、僕らでも普通に体験できた青春。ひたすらにダサくて泥臭くて、気持ち悪くて必死なんですよね。スマートさゼロ。美しさゼロ。だからめちゃくちゃリアル。
“こんな青春送りたかった”じゃなくて、“自分と同じようなダサい奴がなんとか頑張って青春を掴み取ってる”って感じ。だから感情移入がしやすい。僕自身も学生時代はめちゃめちゃ冴えない人間だったもんだから、もしあの時頑張っていたらこれぐらいの青春は得られたのかなぁなんて思えてしまう。
今日はそんな天才漫画家きらたかし先生の最新作「ハイポジ」(完結済み)について。
ありきたりなタイムスリップもの
ハイポジの設定は、今ではもはやフィクションの代表的な設定の一つ「タイムスリップ」もの。もうね。見飽きたよね。最近では「東京リベンジャーズ」とか、「僕だけがいない街」とか、「信長協奏曲」とか。マジで腐る程ある。ストーリーが作りやすいんでしょうね。
ただ、そこはきらたかし先生。他のタイムスリップものとは大きく違い、この人は絶対に主人公を気持ち悪くする。絶対に普通以下の人間にする。
あらすじ
天野光彦は妻に離婚を切り出され、会社もリストラされたばかりの46歳。
自身の境遇を嘆いていた光彦だが、気がつくと16歳の自分の中に。
時は1986年。密かに想いを寄せていた小沢さつき。
高校時代は話したこともなかった妻の幸子。
セピア色だった想い出がカラフルに輝きだす!引用元:Wikipedia
はい。主人公が中年。しかもハゲ。
引用元:ハイポジ
物語はこの汚いおっさんのクソ気持ち悪いシーンから始まる。
引用元:ハイポジ
ひどい。マジで多くの人が想像するおっさん像そのもの。リアリティしかない。
ハゲたおっさんの風俗シーン誰が嬉しいんだよ。マジで序盤での読者の興味づけを無視した作り。しかもタイムスリップする理由が…これ。
引用元:ハイポジ
最悪すぎる。久しぶりに行った風俗で火事にあい、逃げようとしたら頭をぶつける。これでタイムスリップ。「こんなタイムスリップは嫌だ」の大喜利でさまぁ〜ずあたりが答えそう。「久々に行った風俗で火事にあい、逃げるときに転んで頭をぶつけてタイムスリップ」。ウケる。
タイムスリップ先でも自分のこのあとが気になって気が気じゃなくなる。絶対戻りたくない現実。
きらたかし先生は主人公のロクでもなさを描くのが本当にうまい。
すごく普通の恋愛
そしてこのおっさん天野は16歳に戻る。
引用元:ハイポジ
16歳に戻った天野は、あの頃できなかったことをしようと、憧れていた女性に声をかけたり、いじめられていた相手に反抗したりする。
引用元:ハイポジ
するとあの頃の自分のダメなことをしっかり理解して反省している元おっさんは、髪を染めたり、少し勇気を出すようにしたり、なんだかんだ上手いことやって、上手いこと少しだけモテるようになる。
引用元:ハイポジ
…と、書いてて思ったんだけど、きらたかし先生の漫画の魅力伝えるのめちゃくちゃ難しいわ。マジで淡々と物語が進む。本当に普通の高校生の普通の青春をおっさんが体験してるだけ。
中身がおっさんということがバレそうになるわけでも、激しい戦いに巻き込まれるわけでもない。マジで普通。
なんだけど、なんというか、その普通さがめちゃくちゃ良いんですよね。例えば大抵の少女漫画ってそうじゃないですか。普通の日常で普通に憧れの人と仲良くなったり喧嘩したりするだけ。それをヤキモキしたり、不安になったりしてる姿を物語にする。まさにそういう感じ。ハイポジもそうだけど、きらたかし先生の漫画はマジで男版少女漫画。
その普通の中でゆるい雰囲気と、各キャラのちょっとした優しさだったり、ちょっとした幸せだったりを眺める。それがめちゃくちゃ良い。
昭和漫画の限界
4巻まではそういったゆるいリアルな日常がが上手く描かれていて面白かったんですよね。ただ、最終巻5巻では、おそらく打ち切りなんだろうと思うけど、広げた風呂敷をぶちまけたまま急におっさんに戻る。その辺は別に面白くないからコマも入れないけど、終わり方は本当に残念。
ただね、今の時代に80年代をテーマにした漫画ってのもなかなか難しかったんだろう。
連載開始時は平成だけど、今やもう時代は令和だもん。令和生まれにとっての昭和生まれって、平成生まれにとっての大正生まれと同じでしょ。歴史じゃん。
漫画のメインターゲットの10〜20代なんて、全員昭和の記憶なんてない。バブルの話をされても、全員がピンとこない。
一応この漫画はハイポジという80年代当時のラジカセテープをテーマにしてるんだけど、10〜20代は誰一人としてピンとこないだろう。俺だってラジカセなんて親戚のばーちゃんの家でむかーし見たぐらい。
こーゆーひと昔の前の時代を描いた漫画って、当時の懐かしさを思い出しながら、この頃は良かったなぁなんて思いながら読むものだけど、ハイポジで描かれる80年代の風景をノスタルジックに感じられるのは若くて40代ぐらい。漫画読んでる層めちゃめちゃ少なそう…。
映画や小説などの上の世代も含めた媒体なら、こーゆー時代背景でも楽しかっただろうけど、漫画という若い媒体だと、もう80年代、90年代。この頃は“歴史”としての描き方じゃないと難しいんだろうな。
本日は以上。それでは。
=告知=
こうやって漫画が好きな人と好き勝手に漫画を語れる場所を作りたいと思い、埼玉県の川越から10分の上福岡にバー店舗を借りました。漫画を語れるゆるいバーとして8月から営業していこうと思っています。おヒマな人はぜひ遊びに来てね!