昔友人に「漫画好きを自称するなら読まなければいけない」といってシグルイという漫画を紹介されたんですが、僕はどうにも「こうあるためにはこうでなければいけない」みたいな言動がとても嫌いでして。
例えば映画で言うと、「映画好きならショーシャンクの空にぐらい見ていないと」みたいなよく言われる言葉だと思うんだけど、もちろん「ショーシャンクの空に」がいい映画なのは認めますが、万人が万人面白いと思う映画ではないでしょう。だって、例えばアニメ映画が好きな人にとってそれは見る対象ではないわけで、だからと言ってじゃあアニメ映画好きは映画好きではないのでしょうか?オタクは存在しちゃいけないのでしょうか?そんなことはないでしょう。でもこう言うと奴らは「アニメ映画しかみないなんてオタクじゃん」とか言う。映画オタクにとってアニメ映画オタクは絶対に認めない存在なんだと思います。何それ??
僕は昔映画が好きでmixiで映画日記を描いていたところ、邦画の「FLY,DADDY,FLY」をめちゃくそに褒めたらどこぞの自称映画好きがやってきて、「こんなもんを面白いと思うなんてセンス無さすぎ笑」とコメントをつけられたため、「誰なんだよお前は。お前が好きな映画行ってみろ。お前が面白いと思うものが世界が面白いと思うものと思ってんじゃねーぞクソが。」と返信したところ、「タイタニック」と言ってました。「逆に良い」だそうです。一体何が逆なのか?名作の逆は駄作じゃねーの??
何かの価値をどっかの誰かが勝手に決めるのってとてもとてもおかしいことだと思うんすよね。みんなが面白いっていうからってそれを面白いと思えないことは何も悪いことではないはずじゃないですか。だからまぁ逆に「んなもん読んでたまるかクソが」といきりたち、絶対に読まないぞ!と心に決めていたのですが、それから数年がたち、つい最近別の知り合った人に「シグルイは漫画好きなら絶対読んでるよね」みたいな話をまたされて、「まだこんな絶滅危惧種みたいな古臭い価値観の人間がいるのね」と思ったのですが、まーそんなに言う人がいるなら読んでみようと、この度読んでみました。「シグルイ」
いやこれ、漫画好きなら読んでないといけない漫画です
やべー。
すげーわ。
僕が今まで読まなかった理由に、上記のように一巻の表紙がもうなんか、「好き嫌いはっきり分かれる漫画ですよ」って言っているような、いわゆる売れ線要素を完全に取っ払ったような怖い表紙だったためなんですよね。「この美しさがわかんないなら読まなくていいよ」みたいな。表紙から血まみれ全開。左手無いし。怖すぎ。アートの世界の価値観。あとハチマキ。主人公がハチマキしてて面白かった漫画なんてドッジ弾平以外ない。気合いをハチマキで表すタイプが僕は苦手です。
駿府城内で御前試合が行われることとなった。御前試合は、慣例として木剣を使用することになっているが、周囲が諌めたにもかかわらず、駿河大納言・徳川忠長の命により、今回は真剣を用いることが決定され、剣士達による凄惨な殺し合いが幕を開ける。その第一試合、隻腕の剣士・藤木源之助の前に現れた相手は、盲目・跛足の剣士、伊良子清玄だった。まともな試合ができるかどうか危ぶむ周囲の心配をよそに、伊良子は奇妙な構えを取る。刀を杖のように地面に突き刺して足の指で挟み、体を横に大きくのけ反らせるように捻るという構えに群衆が唖然とする中、対する藤木はまったく動じることなく刀を抜き放ち大きく構える。両剣士には浅からぬ因縁があった。
物語は上記のあらすじの通り、片腕を失った藤木と目が潰れ、足をひきづる伊良子の試合のシーンから始まる。いきなり両者とも満身創痍とも言える状況から物語がスタートかと思いきや、このシーンは物語のラストシーンに当たる部分だった。
引用元:シグルイ
そう。シグルイでは冒頭でラストシーンから始まる。
よく漫画家が「キャラが勝手に動き出すんですよー」なんて言うけど、もしそうだったら絶対にできない構成。もちろん「シグルイ」は、直木賞作家の南條範夫の小説「駿河城御前試合」を原作にした漫画で、結末が決まってるからこそできることだと思うんだけど、冒頭から度肝を抜かれる展開。
なぜこんな姿になったのか。なぜこれほどになってまで試合をするのか。その謎が全15巻で書かれている。
圧倒的な漫画表現
多分上記の一コマを貼っただけで、「あ、俺好きじゃない」と思った人が多いと思う。わかる。絵柄的には刃牙に近くてあの筋肉隆々で汗臭さを感じるような絵柄、なんとなく嫌悪感があるのはわかる。なんと言うか男臭いと言うか、「ガチの人が読む奴」感あるよね。さらにチャンピオンレッドの漫画っぽく臓物をぶちまける描写が多数。わかる。キモい。嫌悪する気持ちはめちゃくちゃわかる。でもそれで避けないでほしい。いや別に避けたって良いんだけど、そのハードルだけ乗り越えればやばいから。やばい。
ちなみに「シグルイ」と言うタイトルは「死狂い」だそう。怖いよね。わかる。タイトル通り登場人物全員の狂気がヤバイ。全員ヤバイ。唯一まともに見える主人公もヤバイ。読めば読むほどヤバさがわかる。
引用元:シグルイ
もちろん他のキャラもやばい。
引用元:シグルイ
殿の機嫌一つでどんどん人が殺されていくと言うとんでも世界観。上記の写真の妖怪みたいなヤツも妖怪ではなく、師匠の質問の答えを間違えただけで口を叩っ斬られたせい。
だけど、そんな世界観だからこそ、主人公藤木の情熱や恨み、信念が色濃く写し出される。
引用元:シグルイ
上記は宿敵伊良子と主人公藤木の2度目の決闘のシーンなんだけど、この辺の描写はマジで一ページ一ページめちゃくちゃかっこよくて漫画だからこそできる迫力が最大限に生かされている場面かと思う。
文句なしの傑作。避けてきたのが恥ずかしいくらい。本当に面白いので是非。ゴリゴリの時代劇だし、筋肉隆々のグロ描写のせいでかなり人を選ぶ作品ではあるけど、その辺が平気な人は絶対読んだ方が良い漫画ですよ。
長くなってきたのでこの辺で、本日は以上。それでは。