例えば知り合いの中で、一体何に怯えてるのかやたらと挙動不審だったり、あ、こいつ人生終わってんな。と思えるようなやつだったり、端的に言えばキモい奴。いましたよね。
基本的に古谷実の漫画にはそういう人しか出てきません。まともな奴0人。変人がボケて変人がツッコム。起承転結の「起」が金属バットのコント。そして「承」が童貞のラブコメ。そして「転」が急にハンニバル。「結」がなんかまぁいい感じ?に終わる。古谷実の漫画はいつだってそう。最初から最後までキモい。
あ、違う。稲中とか完全にギャグに振れる。でもそれも最初から最後までキモいな。ギャグ以外はだいたい上記みたいな感じ。普通の人がだんだんやばい奴になるんじゃなくて最初からやばい奴がもっとヤバくなる漫画。今回紹介する「わにとかげぎす」ももちろんその類。
(わにとかげぎす一巻より引用)
というか古谷さんの漫画めっちゃ映画化してんのね。ヒミズしかり、わにとかげぎすしかり、ヒメアノ〜ルしかり。
日常のリアルさと展開の異常さ
古谷さんの漫画はシリアスかギャグかの二択なんだけど、今回紹介する「わにとかげぎす」どちらかというとシリアスより。序盤は完全にギャク?というかシュールなんだけど、2巻あたりから一気にシリアスに振れる。しかも強烈なシリアス。ガンガン人が死ぬ。それまで主人公の設定と絵さえ無視すれば甘酸っぱい恋愛ものだったのに、急にサスペンスに変わる。バカ殿からの羊たちの沈黙。クレしんからのSAW。これ週刊連載で読んでたら別の漫画じゃね?ってなるレベル。
今回のわにとかげぎす。何がいいのかっていうと、設定がめちゃくちゃリアルなんですよね。主人公が32歳で何も疑問を持たずにマンションの警備員をしてるおっさん。そのおっさんがふと人生を振り返った時に、自分が何も得ていないことに気づいて急に友達が欲しくなるというところから物語が始まる。
もうね。何それって感じですよね。だって、【おっさんが友達欲しくなる】って、それ誰が興味あるの??作れよ。でも主人公はどうすればいいのか悩んで、悩んだ末に特に何もしないっていう。流れ星に祈るだけ。何それ??漫画ナメてんのって展開。
(わにとかげぎす一巻より引用)
普通漫画の主人公って言ったら、そこで一念発起して色々悩んで仲間と争って、なんとか解決して行動を始めるじゃん??ところがこの漫画ではそもそも仲間が一人もいない。えぇ??成り立つ??
ところがそんなおっさんに、恋心を抱く若い女性が突然現れる!
(わにとかげぎすより引用)
は??そんな都合よく行くわけねーだろ。ルフィの腕が伸びるのはなんの疑問もなく受け入れるけど、冴えないおっさんに惚れる女が現れるのは受け入れられねーぞ。いくら漫画だからってやりすぎ。タケコプターで空飛べるのは納得できるし、手でよくわからん形を作ればなぜか自分の分身が1000人現れることは納得できても、おっさんに惚れる女が現れるのは無理。あり得ない。いくらなんでも人生ナメすぎ。
なんだけども、なぜかこの漫画では納得できてしまう。というかなぜかおっさん頑張れ!って思っちゃう。絵めちゃくちゃキモいのに。
なんだろうね。多分こう言った超絶展開以外の日常があまりにもリアルに悲惨すぎるから、それ以外が素直に受け入れられてしまう。
というようなことが続きながら急に…
(わにとかげぎすより引用)
どーん。怖すぎ。古谷さんの書く殺人犯本当に怖い。罪悪感がなくなってる感じ。
なんなのこの作者。どんな犯罪者でもそれなりに良心ってものを持ち合わせた上での犯罪だと思うんだけど、この人のかく犯罪者にはそれがない。
マジで怖い。
(わにとかげぎすより引用)
最初のこの感じどこ行ったの??
ということで、この漫画も多分好き嫌いがめちゃくちゃ別れる漫画だと思います。でも、古谷さんの他の漫画好きな人は間違いなく期待通りの展開です。僕は大好きでした。
本日は以上。それでは。